医療情報×ブロックチェーン勉強会 (4)日本の規格作る人の視点とスタートアップの視点

前提

この記事は、下記リンクの勉強会『医療情報×ブロックチェーンプロジェクトの実現可能性と課題 [医学生向け集中講義&討論会!]』において学んだことを記したものです。この勉強会は、医療情報システムにブロックチェーンを用いることの是非や実現可能性を議論することを目的とし、医療情報システムの日本における規格作りのエキスパートとして一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会 (JAHIS) 様を、医療業界におけるブロックチェーン導入の挑戦者としてMediblocを招き、講演とパネルディスカッションを行ないました。本記事『医療情報×ブロックチェーン勉強会 (4) 日本の規格作る人の視点とスタートアップの視点』では JAHIS 様と Medibloc 様によるパネルディスカッションの内容をまとめております。この記事の内容はあくまでも勉強会を受けた参加者個人の解釈をもとにまとめておりますことをご了承ください。

記 : https://www.meetup.com/ja-JP/Decentralized-Salad/events/256262260/

目次

  1. パネルディスカッション Q & A 
  2. 結論
  3. 残った疑問や感想

パネルディスカッション Q & A 

Q : Medibloc の発表を踏まえて改めて医療情報システムを扱う上でどのようなメリットデメリットがあるかを感じたか

JAHIS (小) : 医療情報をクラウド上に扱うに当たって3省4ガイドラインを本当に満たすには、ブロックチェーンは適切ではない。ここをどうするのか?またブロックチェーンは2つの施設間で始めるのではなく、いろんな人が参加しないと意味がない。国がブロックチェーンを進めます、と言わない限り、病院によって扱うシステムが違うと普及進まないのではないか。また日本医療は診療行為一つ一つに対して値段が決まっている (国によって料金システムは異なる) ため、診療報酬に新しくブロックチェーン利用による報酬などの項目がつかないと、料金体系に組み込むこともできない。そこをどうするのか?医療保険や診療報酬が関係なければ導入できるのではないか?例えば、先ほど紹介した調剤薬局のチェーンへの実装事例などは、診療報酬などとは全く関係ない。

JAHIS (中)  : また、ブロックチェーンの特性として、改ざん検知に優れている点は間違いない。また、サーバーダウンによる障害を防ぐという点ではブロックチェーンの良さが活きる。しかし、盗み見されないことに対するブロックチェーンに対する機能はない。

Q : Medibloc は実際いまどのような技術を開発しようとしているのですか

Medibloc : 今後は B2C のプラットフォームも開発予定だが、現在はB2B に集中している。病院や保険会社が個人の健康に関与し向上させていく役割を持つ方へとシフトすることによって病院や保険会社に対する医療情報システムの需要が向上している。いまは一つの大きな病院と一つの大きな保険会社間での医療情報共有システムをつくっていて、個人が病院で得た自分の医療情報を保険会社に送るシステムを作っている。個人は自分の医療療情報のハッシュ値を病院から取得でき、個人が保険会社にそのハッシュ値を送ると、保険会社がその患者の医療情報が改ざんされていないか確かめることができるというサービスである。このような保険詐欺の解決を第一歩として進めている。

Q : 保険会社に対する医療情報の改ざん不可能性以外で、医療情報をブロックチェーン上で扱うメリットにどのようなものがあるのか

Medibloc : ヘルスケア情報自体は個人が管理するものであってブロックチェーン上で保存すべきものではありません。ヘルスケア情報自体は個人で管理すべきもの。例えばデータマネジメントにはスマートフォン経由で行われる。そして、分散型のデータベースをつくることにより、一度のハッキングで国民の医療情報が大きく盗まれることが予防できるのではないかと考えている。

Q : 新しい医療情報システムを作る上での課題や実現可能性について

Medibloc : 技術的なチャレンジではなくて、どうやって既存の病院や企業、政府のエコシステムに入っていくかが問題。今は我々が取り組んでいるのはそこである。

Q : JAHIS様は新しい技術が出てきたときにその技術の有用性を検討し規格に落とし込むこともあると思いますが、その場合、どのようにして周囲を巻き込んでいるのでしょうか。

JAHIS (中) : まず、業界団体は新しい技術に基づいたサービスを対象にするわけではない。新しい技術に基づいたサービスは、そのユースケースを個別の会社が検討して、個別に新しいサービスの提供をするかどうかを議論するはずだ。そのような市場の取り合いなどに関しては業界団体としては関与しない。

どちらかというとそういうユースケースで個別で進めると無駄があり、競争領域ではないものに対して関与するのが業界団体である。

では、中身に関しては今までその技術を用いてやってきた人たちに有用性を確かめつつ、特定の企業がメリットを得るような形になっていないかなどを気をつけながら検討する。あくまでも業界全体としてのコストが下がることを目的としている。

Q : 例えば HL7 FHIR はアメリカの医療業界で話題になったものが日本での導入でも検討されているのか

JAHIS : 国際標準化団体 ISO のなかに、運用系の標準があり、そこを参考にすることもある。日本の医療情報の標準化団体 SSMIX のなかでは、HL7の内容を必要に応じて参照しながら標準化を進めるのが一般的。日本は、2 バイト文字などの独特の文化があるため、独自のルールを作る必要もある。

Q : 韓国では情報システムはどこが規格を進めているのか

Medibloc : システムや導入に関与する団体の存在自体は日本と大差はない。また、規格を守った団体に対しては金銭的な報酬を与えるなどの事例があるようである。

Q : 政府や医療業界の様々な人に自分の技術を規格として後押ししてもらう上で、どのようなことを気をつけていますか?

Medibloc : 我々は韓国で、可能な限りニュートラルな立場を貫こうとしている。誰に対してもオープンである必要がある。韓国では 5 大病院があり、お互いに仲がよいわけではないのですが、弊社はその病院全てと仲良くしている。

JAHIS : さっき、診療報酬という話が出てきました。国が、医療情報システムを導入したいので、導入した病院に報酬を与えるという例は正直少ないです。国の診療報酬を決めているところの会長をやっていた方に、日本の医療制度はどのようにコントロールしていたのですか、と聞いたところ、実は日本の医療行政制度は全般的に諸外国に比べて規制がゆるいらしい (例えば人口何人あたりの医療機関数やベット数などが決められているところもあるが、日本にはそのような決まりはない)。その場合、医療はもともと民間が主になって動いているものであるためどのように行政としてコントロールするのか。それに対して行政は診療報酬を操作することによって医療行政をコントロールしているらしいです。

医療システムを導入することに対する補助金はほとんどつかないのですが例外としては次のようなものがあります。2 年前にかかりつけ医からの紹介で大病院で診察を受けるときに、紹介状が必要な場合がある。その紹介状を電子的に提供したら、その行為に対して何百円か報酬がつく仕組みになった (実際には「点数」がつく。1点10円)。よって、新しい医療情報システムを何か導入する場合は、そのシステムにとってよい手続きをした相手に対しては「点数がつくように」してください、と行政にお願いする場合があります。

Q (参加者より) : 規格に関して。ある一部の幹部が進めた方が良いよ、っていうとなんとなく進んでしまっていることにどう対処するのか?

JAHIS : 診療報酬についてはいろんな利害関係が参加するので議論がクローズなのでそのような点があることはないわけでもないかもしれませんが、我々はあくまでも愚直に根拠をもとに検証をしていくことを目指す。

結論

  • ブロックチェーン上で医療情報の全てを保管するのは適切ではない。その理由としては運用面での不便性や情報漏洩のリスクが挙げられる。
  • ブロックチェーン上で医療情報を扱う場合は、その改ざん不可能性を武器にした用途に使うのが一番ではないか。用途の例としては、北海道の調剤薬局のデットストック解消に向けたブロックチェーン導入や、患者が自分の健康状態を偽ることで不当に保険サービスを受けるのを防ぐための、Mediblocによる病院と保険会社間の医療情報共有システムなどがある。
  • ブロックチェーン上による医療情報の保存は両者ともに肯定はしていなかった。JAHIS 側によると行政では医療情報の第三者機関による活用に向けて、医療情報の活用に対する規制を緩和したり、匿名加工情報の認定機関を設ける仕組みをつくったりするなどして整備を進めているらしい。一方で、Medibloc の意見としては、医療情報を個人で管理することにより、医療情報の格納場所が分散され、一箇所のサーバをハッキングしても医療情報の大量流出のリスクが低くなるらしい。
  • ある医療情報システムの標準化を進めるためには、行政側では (稀な例ではあるものの) 診療報酬 (点数) をコントロールするという手などが使われたことがある。Medibloc では、なるべくニュートラルに、競合関係にある機関同士であっても良好な関係を作ることに勤めているそうである。

残った疑問や感想

個人情報の取り扱いや流通について

  • 医療機関は医療情報の第三者提供でどれくらいの利益をあげているのか
  • 匿名加工情報の業者は果たして信用できるのか。国の認定基準がどれほど効力があるのか。
  • 情報銀行の認定事業者などは権力が集中しそう。情報銀行はどのような企業が参入を検討しているのか。
  • 次世代医療基盤法によると、Medibloc が自社サービスを日本で展開する場合はまず認定事業者になる必要がある、ということか?
  • 行政側の動きがよくわかった。

ヘルスケア領域におけるブロックチェーンの活用について

医療情報を個人で管理することにより、医療情報の格納場所が分散され、一箇所のサーバをハッキングしても医療情報の大量流出のリスクが低くなる、というmedibloc の意見に対して。個人的には医療情報システムを作るには 2 つの対策が必要であると感じた。1 つ目が技術的な扱いやすさを追究すること (相互運用性など)、2 つ目が情報漏洩のリスク管理体制を敷くことである。Medibloc のいうような状態を実現する場合、個人が医療情報を扱う上でのガイドラインなどを改めて作る必要がある。通常の中央集権的な医療情報の管理システムでは、医療情報のある取り扱いに対してはある立場の人の承認を得る必要がある、などの、人間の組織的なリスク管理体制に対するガイドラインが敷かれているが、個人が医療情報を扱う場合誰にでもわかりやすく医療情報の取り扱いに関する教育をする必要があり、かなり骨の折れる仕事である。したがって、Medibloc のやろうとしている世界観を実現するためには、利用者の情報教育も視野に入れると数十年のスパンを想定する必要がありそうであると感じた。

前回記事 : 医療情報×ブロックチェーン勉強会 (3)医療情報をブロックチェーン上で扱うサービスの挑戦

https://omegastep.com/2018/12/10/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1x%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A-3%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%82%92%E3%83%96/

次回記事 : 医療情報×ブロックチェーン勉強会 (5)参加者の反応と今回の反省点

https://omegastep.com/2018/12/10/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1x%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A-5%E5%8F%82%E5%8A%A0%E8%80%85%E3%81%AE%E5%8F%8D%E5%BF%9C/

投稿者: megavi1212

ジョージア系ユダヤ人とアルメニア人のハーフの母親と、日本人の父のもと、イスラエルで生まれる 早稲田大学先進理工学部物理学科を卒業 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻に入学 学部時代は原子核物理学を量子多体計算をヘリウム3原子系の状態方程式に応用する研究を行い、大学院では低温物理学の研究室にてmK温度域におけるヘリウム3原子系に関する実験をおこなう 大学院在学中に海外人材業界や仮想通貨・ブロックチェーン業界でインターンを経験したのち、 仮想通貨・ブロックチェーン系の投資&コンサルティング会社にて社長秘書、セールス、海外のお客様の対応窓口、海外案件のプロジェクトマネジメント等を担当 2018年より株式会社imaのメンバーとして経営戦略室に着任 仮想通貨・ブロックチェーン業界をビジネス的には離れたものの、優秀な日本の学生を海外の仮想通貨・ブロックチェーンプロジェクトと繋げる活動をしている。 /Graduated from Department of Physics, School of Advanced Science and Engineering, Waseda University Enrolled in the physics course of the Graduate School of Science, University of Tokyo At the undergraduate age, conducted research on applying equations of state from nuclear physics to helium 3 system as quantum many body calculation At graduate school, conducted experiments on helium 3 system at mK temperature in laboratory at low temperature physics While attending the graduate school, worked as internship for cross board human resource industry and virtual currency / block chain industry Participated in virtual currency and block chain investment & consultation company, as who is responsible for president's secretary, sales, counterparts for overseas customers, project management for overseas projects, etc Participated in ima Inc. in 2018 as Strategic Management Officer

“医療情報×ブロックチェーン勉強会 (4)日本の規格作る人の視点とスタートアップの視点” への 2 件のフィードバック

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中