医療情報×ブロックチェーン勉強会 (5)参加者の反応と今回の反省点

前提

この記事は、下記リンクの勉強会『医療情報×ブロックチェーンプロジェクトの実現可能性と課題 [医学生向け集中講義&討論会!]』において学んだことを記したものです。この勉強会は、医療情報システムにブロックチェーンを用いることの是非や実現可能性を議論することを目的とし、医療情報システムの日本における規格作りのエキスパートとして一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会 (JAHIS) 様を、医療業界におけるブロックチェーン導入の挑戦者としてMedibloc様を招き、講演とパネルディスカッションを行ないました。本記事『医療情報×ブロックチェーン勉強会 (5) 参加者の反応と今回の反省点』では勉強会に参加した医学生や医工連携に興味のある学生らが、勉強会の内容に対してどう反応したかや、企画者 (自分) 自身の反省を紹介しております。今後医療関係&ブロックチェーン関係で勉強会やカンファレンスを開くことを検討されている方はぜひご参照ください。この記事の内容はあくまでも勉強会を受けた参加者個人の解釈をもとにまとめておりますことをご了承ください。

記 : https://www.meetup.com/ja-JP/Decentralized-Salad/events/256262260/

目次

  1. 勉強会概要
  2. 医学生や医工連携に興味ある学生がこの勉強会で聞きたかったこと
  3. 参加者の勉強会に対する満足度
  4. 参加者が今後参加したいと答えた勉強会
  5. パネルディスカッションにおけるファシリテーションの反省点
  6. 勉強会の企画に対する反省点
  7. Special Thanks 

勉強会概要

  • 勉強会参加者の71% が医学・看護・薬学生
  • 勉強会アンケート回答者の満足度を集計したところ、74% でした。
    • 「小林先生の講演がわかりやすかった」
    • 「最後レギュレーション、行政に踏み込んでくれて嬉しかった」
    • 「もっとJAHIS様のお話を聞きたかった」
  • 勉強会アンケート未回答者の満足度も含めて集計したところ、36% でした。
    • 「もう少し医療について勉強してほしい。プレゼンも練習 (予習) 不足な点が見られる方がいた」
    • 「メディブロックさんは会社についての内容が多くメディブロックに興味の薄い人は聞いていると辛かったと思う。」

医学生や医工連携に興味ある学生がこの勉強会で聞きたかったこと

トピック聞きたいと答えた人数
ブロックチェーンのこと 8
医療情報システムのこと 9
ブロックチェーンの医療業界における実装のこと 12
医療情報システムの標準化のこと  4
医療業界での挑戦的な取り組みのこと 4
医療業界の課題をテクノロジーで解決するということ 5

その他聞きたかった内容

  • ブロックチェーンがそもそも医療に介入できるのか、ということ
  • 医師として、内側からどのような取り組みをすれば良いのか
  • 医療業界の課題
  • 実際の日本のIT技術(医療) の現状
  • ブロックチェーンがそもそも医療に介入できるのか、ということ

参加者の勉強会に対する満足度

参加者の感想

  • 正直私はベンチャーに興味がなく、いつ政府がレギュレーションを変えるのか (点数がつくのかとか)、変えないと無理だろうなと思っていて、最先端で働かれている方もそういう思考だと確かめることができたので満足です。あとは、今、学生である私たちは何をしたらいいか、とおもいました。最後レギュレーション、行政に踏み込んでくれて嬉しかった。
  • ありがとうございました
  • 様々な視点からの意見を聞き考えることができた

参加者によるアドバイス

  • もう少し医療について勉強してほしい。プレゼンも練習 (予習) 不足な点が見られる方がいた

参加者が今後参加したいと答えた勉強会

  • ベンチャーなしのガチガチな政府とかでブロックチェーンの話
  • VRやARとブロックチェーンについて/医療ベンチャーの動向とか
  • 保険×ブロックチェーン

パネルスカッションにおけるファシリテーションの反省点

  • 医学生としては行政やルール作っていく側の人の話を聞きたかったため, ベンチャーよりもJAHIS様のようなルールづくりに直接携わっている人たちの話を聞きたい, という意見があった (1人)。
  • Medibloc様は講演で25分ほどは一般的な話、5分ほどはプロジェクトの話をしていただいたにも関わらず、「Medibloc はプロジェクトの話が多かった」という乾燥があったのは、パネルディスカッションにて私が質問をMedibloc様のプロジェクト寄りにしてしまったからではないかと考える。パネルディスカッションでは、あくまでも私がメディブロックさんのプロジェクトそのものについての質問を投げて、アレンさんはそれに答えただけ。
  • JAHIS様とMedibloc様の間に、対話が成り立ちにくい印象だった (日本語と英語だったことも関与すると思う。一応事前に受けていた注意ではあったが, やってみて初めて実感した)。Medibloc様の講演に関して、開発途中のプロダクトの話が公開できない情報などの理由によりあまりできずに一般的な状況やビジネスの話に寄ったためか、「プロジェクトではなく一般的な医療情報システムの話をお願いします」という私の Medibloc様に対する要望が適切でなかったのか、それとも JAHIS様の講演内容はある意味 JAHIS様のプロジェクト内容と考えると JAHIS様のみプロジェクトについて語らせ過ぎてしまったのか。
  • 今後は、政府を呼ぶのであれば (政府の活動内容をプロジェクトと呼ぶのであれば、政府は自分のプロジェクトの話をするので) 、スタートアップやベンチャーを対峙させる時はスタートアップやベンチャーのもつプロダクトについて詳しく語ってもらう方がよい (ファシリがやりやすい、メッセージを効果的に伝えやすいという意味で) のではないか。今回は同じ医療情報システムの導入者と挑戦者という視点でJAHIS様とMedibloc様を紹介してしまったが, スタートアップ側の紹介をピッチっぽくせず、かつ発信内容の重みを揃えるには、開発状況を加味する必要があったのかもしれない。
  • 今回はJAHIS様によってBitcoin が反例として取り上げられていたが他のブロックチェーンの紹介があったら違う結論になっていた可能性がある。相手の挙げる判例についてあらかじめ理解した上で適切な内容を話せる人を探す必要があった。
  • JAHIS様から Medibloc様やその逆への質問の時間を取りたかった。
  • JAHIS小林様や JAHIS 中光様から最初にでた疑問を要約して、一個一個Medibloc 様にその疑問に対して答えてもらう必要があった 。JAHIS様は一般的な質問をあげていたのに、自分がMedibloc様の技術開発状況の話に移してしまったことが後悔。なぜならこの勉強会は Medibloc様のプロジェクトではなく、Medibloc様を医療業界におけるブロックチェーン導入に対する一専門家として呼んだため。
  • Medibloc様の開発しようとしているような技術の概要がわからず、改めてMedibloc様 に開発中の技術について説明してもらう必要があった。
  • 質問を日本の標準化のしかたの話から海外の標準化の仕方に切り替えるときに、きちんと前の質問との関係性を明らかにしつつ聞くべきだった。
  • 登壇者が途中入場する場合は、入場前までのやりとりを少しでも相手に伝えておく必要があった。 

勉強会の企画に対する反省点

よかったところ

注目度が高かった

  • 有志の勉強会でありながら、たくさんの医学生団体、ブロックチェーン勉強会、業界団体の方にご協力いただけたこと
  • ブロックチェーン系のイベントで30人以上参加希望者が現れるのは希 (そのうち 70% 以上が医学生)
  • IFMSA Japan の代表曰く医療情報システムは医学生が普段あまり出会わない話題らしい
  • 医学生団体 Medical Future Fes 代表者に、今度は団体内部向けにぜひ勉強会を企画してほしいと強くお願いされた

専門家の方にご協力いただいたこと

要改善点

企画者の勉強や配慮不足

  • ファシリテーターがブレて、プロジェクトの内容の話が医療情報システムの導入の話と途中からすり替わってしまった
  • 事前に発表者の発表内容確認ができていなかったことにより参加者のみなさまを一部混乱させてしまった部分があった
  • トピックの偏り
  • Binance のデューデリ資料などもリサーチの参考になったが最初見逃していた

全体的な進め方

  • 3時間の講演会はきついため、途中でアイスブレイクやお菓子タイムを入れると良いのではないか
  • zoom は途中で切れていないか確認する
  • 質疑応答は各講演とパネルディスカッション後それぞれで行うほうが、参加者が質問を覚えていられる & 質問・回答しやすい

Special Thanks 

この勉強会はどこか1つの団体の勉強会というわけではなく, 有志で企画をしたものです。そのため, 様々な団体の方々にご協力いただきました。そのお礼をこの場でさせていただきたいと思います。

ご協力をしていただきました, 

一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会 (JAHIS) 様の中光様と小林様

Medibloc 代表の Dr. Allen 様と Han 様

黒田心様

国際医学生連盟 日本支部 IFMSA Japan 代表 笠井さま, メンバーの倉田さま

Medical Future Fes 代表 若林さま, メンバー 辻さまと名誉顧問の黒田さま

アジア医学生連絡協議会日本支部 AMSA Japan 元代表 岩瀬さま, メンバーの 西村さま

日本獣医学生協会(JAVS)外務局 林さま

株式会社JIW Sync 代表取締役 赤野さま

早稲田大学ブロックチェーンサークル Bit bears メンバーの鈴木様, 代表の方々

Miss bitcoin の藤本真衣様, 

その他告知や技術的な相談にのっていただいたみなさま, 本当にありがとうございました。

前回記事 : 医療情報×ブロックチェーン勉強会 (4)日本の規格作る人の視点とスタートアップの視点

https://omegastep.com/2018/12/10/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1x%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A-4%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%A6%8F%E6%A0%BC%E4%BD%9C/

医療情報×ブロックチェーン勉強会 (4)日本の規格作る人の視点とスタートアップの視点

前提

この記事は、下記リンクの勉強会『医療情報×ブロックチェーンプロジェクトの実現可能性と課題 [医学生向け集中講義&討論会!]』において学んだことを記したものです。この勉強会は、医療情報システムにブロックチェーンを用いることの是非や実現可能性を議論することを目的とし、医療情報システムの日本における規格作りのエキスパートとして一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会 (JAHIS) 様を、医療業界におけるブロックチェーン導入の挑戦者としてMediblocを招き、講演とパネルディスカッションを行ないました。本記事『医療情報×ブロックチェーン勉強会 (4) 日本の規格作る人の視点とスタートアップの視点』では JAHIS 様と Medibloc 様によるパネルディスカッションの内容をまとめております。この記事の内容はあくまでも勉強会を受けた参加者個人の解釈をもとにまとめておりますことをご了承ください。

記 : https://www.meetup.com/ja-JP/Decentralized-Salad/events/256262260/

目次

  1. パネルディスカッション Q & A 
  2. 結論
  3. 残った疑問や感想

パネルディスカッション Q & A 

Q : Medibloc の発表を踏まえて改めて医療情報システムを扱う上でどのようなメリットデメリットがあるかを感じたか

JAHIS (小) : 医療情報をクラウド上に扱うに当たって3省4ガイドラインを本当に満たすには、ブロックチェーンは適切ではない。ここをどうするのか?またブロックチェーンは2つの施設間で始めるのではなく、いろんな人が参加しないと意味がない。国がブロックチェーンを進めます、と言わない限り、病院によって扱うシステムが違うと普及進まないのではないか。また日本医療は診療行為一つ一つに対して値段が決まっている (国によって料金システムは異なる) ため、診療報酬に新しくブロックチェーン利用による報酬などの項目がつかないと、料金体系に組み込むこともできない。そこをどうするのか?医療保険や診療報酬が関係なければ導入できるのではないか?例えば、先ほど紹介した調剤薬局のチェーンへの実装事例などは、診療報酬などとは全く関係ない。

JAHIS (中)  : また、ブロックチェーンの特性として、改ざん検知に優れている点は間違いない。また、サーバーダウンによる障害を防ぐという点ではブロックチェーンの良さが活きる。しかし、盗み見されないことに対するブロックチェーンに対する機能はない。

Q : Medibloc は実際いまどのような技術を開発しようとしているのですか

Medibloc : 今後は B2C のプラットフォームも開発予定だが、現在はB2B に集中している。病院や保険会社が個人の健康に関与し向上させていく役割を持つ方へとシフトすることによって病院や保険会社に対する医療情報システムの需要が向上している。いまは一つの大きな病院と一つの大きな保険会社間での医療情報共有システムをつくっていて、個人が病院で得た自分の医療情報を保険会社に送るシステムを作っている。個人は自分の医療療情報のハッシュ値を病院から取得でき、個人が保険会社にそのハッシュ値を送ると、保険会社がその患者の医療情報が改ざんされていないか確かめることができるというサービスである。このような保険詐欺の解決を第一歩として進めている。

Q : 保険会社に対する医療情報の改ざん不可能性以外で、医療情報をブロックチェーン上で扱うメリットにどのようなものがあるのか

Medibloc : ヘルスケア情報自体は個人が管理するものであってブロックチェーン上で保存すべきものではありません。ヘルスケア情報自体は個人で管理すべきもの。例えばデータマネジメントにはスマートフォン経由で行われる。そして、分散型のデータベースをつくることにより、一度のハッキングで国民の医療情報が大きく盗まれることが予防できるのではないかと考えている。

Q : 新しい医療情報システムを作る上での課題や実現可能性について

Medibloc : 技術的なチャレンジではなくて、どうやって既存の病院や企業、政府のエコシステムに入っていくかが問題。今は我々が取り組んでいるのはそこである。

Q : JAHIS様は新しい技術が出てきたときにその技術の有用性を検討し規格に落とし込むこともあると思いますが、その場合、どのようにして周囲を巻き込んでいるのでしょうか。

JAHIS (中) : まず、業界団体は新しい技術に基づいたサービスを対象にするわけではない。新しい技術に基づいたサービスは、そのユースケースを個別の会社が検討して、個別に新しいサービスの提供をするかどうかを議論するはずだ。そのような市場の取り合いなどに関しては業界団体としては関与しない。

どちらかというとそういうユースケースで個別で進めると無駄があり、競争領域ではないものに対して関与するのが業界団体である。

では、中身に関しては今までその技術を用いてやってきた人たちに有用性を確かめつつ、特定の企業がメリットを得るような形になっていないかなどを気をつけながら検討する。あくまでも業界全体としてのコストが下がることを目的としている。

Q : 例えば HL7 FHIR はアメリカの医療業界で話題になったものが日本での導入でも検討されているのか

JAHIS : 国際標準化団体 ISO のなかに、運用系の標準があり、そこを参考にすることもある。日本の医療情報の標準化団体 SSMIX のなかでは、HL7の内容を必要に応じて参照しながら標準化を進めるのが一般的。日本は、2 バイト文字などの独特の文化があるため、独自のルールを作る必要もある。

Q : 韓国では情報システムはどこが規格を進めているのか

Medibloc : システムや導入に関与する団体の存在自体は日本と大差はない。また、規格を守った団体に対しては金銭的な報酬を与えるなどの事例があるようである。

Q : 政府や医療業界の様々な人に自分の技術を規格として後押ししてもらう上で、どのようなことを気をつけていますか?

Medibloc : 我々は韓国で、可能な限りニュートラルな立場を貫こうとしている。誰に対してもオープンである必要がある。韓国では 5 大病院があり、お互いに仲がよいわけではないのですが、弊社はその病院全てと仲良くしている。

JAHIS : さっき、診療報酬という話が出てきました。国が、医療情報システムを導入したいので、導入した病院に報酬を与えるという例は正直少ないです。国の診療報酬を決めているところの会長をやっていた方に、日本の医療制度はどのようにコントロールしていたのですか、と聞いたところ、実は日本の医療行政制度は全般的に諸外国に比べて規制がゆるいらしい (例えば人口何人あたりの医療機関数やベット数などが決められているところもあるが、日本にはそのような決まりはない)。その場合、医療はもともと民間が主になって動いているものであるためどのように行政としてコントロールするのか。それに対して行政は診療報酬を操作することによって医療行政をコントロールしているらしいです。

医療システムを導入することに対する補助金はほとんどつかないのですが例外としては次のようなものがあります。2 年前にかかりつけ医からの紹介で大病院で診察を受けるときに、紹介状が必要な場合がある。その紹介状を電子的に提供したら、その行為に対して何百円か報酬がつく仕組みになった (実際には「点数」がつく。1点10円)。よって、新しい医療情報システムを何か導入する場合は、そのシステムにとってよい手続きをした相手に対しては「点数がつくように」してください、と行政にお願いする場合があります。

Q (参加者より) : 規格に関して。ある一部の幹部が進めた方が良いよ、っていうとなんとなく進んでしまっていることにどう対処するのか?

JAHIS : 診療報酬についてはいろんな利害関係が参加するので議論がクローズなのでそのような点があることはないわけでもないかもしれませんが、我々はあくまでも愚直に根拠をもとに検証をしていくことを目指す。

結論

  • ブロックチェーン上で医療情報の全てを保管するのは適切ではない。その理由としては運用面での不便性や情報漏洩のリスクが挙げられる。
  • ブロックチェーン上で医療情報を扱う場合は、その改ざん不可能性を武器にした用途に使うのが一番ではないか。用途の例としては、北海道の調剤薬局のデットストック解消に向けたブロックチェーン導入や、患者が自分の健康状態を偽ることで不当に保険サービスを受けるのを防ぐための、Mediblocによる病院と保険会社間の医療情報共有システムなどがある。
  • ブロックチェーン上による医療情報の保存は両者ともに肯定はしていなかった。JAHIS 側によると行政では医療情報の第三者機関による活用に向けて、医療情報の活用に対する規制を緩和したり、匿名加工情報の認定機関を設ける仕組みをつくったりするなどして整備を進めているらしい。一方で、Medibloc の意見としては、医療情報を個人で管理することにより、医療情報の格納場所が分散され、一箇所のサーバをハッキングしても医療情報の大量流出のリスクが低くなるらしい。
  • ある医療情報システムの標準化を進めるためには、行政側では (稀な例ではあるものの) 診療報酬 (点数) をコントロールするという手などが使われたことがある。Medibloc では、なるべくニュートラルに、競合関係にある機関同士であっても良好な関係を作ることに勤めているそうである。

残った疑問や感想

個人情報の取り扱いや流通について

  • 医療機関は医療情報の第三者提供でどれくらいの利益をあげているのか
  • 匿名加工情報の業者は果たして信用できるのか。国の認定基準がどれほど効力があるのか。
  • 情報銀行の認定事業者などは権力が集中しそう。情報銀行はどのような企業が参入を検討しているのか。
  • 次世代医療基盤法によると、Medibloc が自社サービスを日本で展開する場合はまず認定事業者になる必要がある、ということか?
  • 行政側の動きがよくわかった。

ヘルスケア領域におけるブロックチェーンの活用について

医療情報を個人で管理することにより、医療情報の格納場所が分散され、一箇所のサーバをハッキングしても医療情報の大量流出のリスクが低くなる、というmedibloc の意見に対して。個人的には医療情報システムを作るには 2 つの対策が必要であると感じた。1 つ目が技術的な扱いやすさを追究すること (相互運用性など)、2 つ目が情報漏洩のリスク管理体制を敷くことである。Medibloc のいうような状態を実現する場合、個人が医療情報を扱う上でのガイドラインなどを改めて作る必要がある。通常の中央集権的な医療情報の管理システムでは、医療情報のある取り扱いに対してはある立場の人の承認を得る必要がある、などの、人間の組織的なリスク管理体制に対するガイドラインが敷かれているが、個人が医療情報を扱う場合誰にでもわかりやすく医療情報の取り扱いに関する教育をする必要があり、かなり骨の折れる仕事である。したがって、Medibloc のやろうとしている世界観を実現するためには、利用者の情報教育も視野に入れると数十年のスパンを想定する必要がありそうであると感じた。

前回記事 : 医療情報×ブロックチェーン勉強会 (3)医療情報をブロックチェーン上で扱うサービスの挑戦

https://omegastep.com/2018/12/10/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1x%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A-3%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%82%92%E3%83%96/

次回記事 : 医療情報×ブロックチェーン勉強会 (5)参加者の反応と今回の反省点

https://omegastep.com/2018/12/10/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1x%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A-5%E5%8F%82%E5%8A%A0%E8%80%85%E3%81%AE%E5%8F%8D%E5%BF%9C/

医療情報×ブロックチェーン勉強会 (2)ヘルスケア分野におけるブロックチェーンの課題と未来

前提

この記事は、下記リンクの勉強会『医療情報×ブロックチェーンプロジェクトの実現可能性と課題 [医学生向け集中講義&討論会!]』において学んだことを記したものです。この勉強会は、医療情報システムにブロックチェーンを用いることの是非や実現可能性を議論することを目的とし、医療情報システムの日本における規格作りのエキスパートとして一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会 (JAHIS) 様を、医療業界におけるブロックチェーン導入の挑戦者としてMediblocを招き、講演とパネルディスカッションを行ないました。本記事『医療情報×ブロックチェーン勉強会 (2) ヘルスケア分野におけるブロックチェーンの課題と未来』では JAHIS 様の発表内容をまとめております。この記事の内容はあくまでも勉強会を受けた参加者個人の解釈をもとにまとめておりますことをご了承ください。

記 : https://www.meetup.com/ja-JP/Decentralized-Salad/events/256262260/

目次

  1. ブロックチェーンとは
  2. IBM のブロックチェーン導入実績
  3. ブロックチェーンで医療情報を取り扱うことの可能性
  4. 医療分野におけるブロックチェーンの応用例

ブロックチェーンとは

ブロックチェーンとは, 分散型台帳のことである。情報を管理する台帳を中央集権的に一つのサーバで管理するのではなく, 複数のサーバで管理することにより, 分散型台帳は取引の期間やコスト, 脆弱性を解消しようとする。しかし, コスト削減などが実際に実現されているかは場合による。

ブロックチェーンには4つの要素技術がある。分散台帳, コンセンサス (bitcoin だとマイナーが何人いるか), スマートコントラクト, セキュリティ。

ブロックチェーンは、改ざんはされないけれど、内容の暗号化が計算で解読されて内容が参照される可能性がある。

IBM のブロックチェーン導入実績

IBM はハイパーレッジャーパブリック (企業向けの許可制ブロックチェーン) に参加。ハイパーレッジャーパブリックは Linux Foundation が主体で作ったものであり、そのシステム上に様々な企業が参加している。

IBM の実績は銀行系や製薬メーカーとの仕事も。

ブロックチェーンで医療情報を取り扱うことの可能性

2004年 e-分書法ができ、ハッシュ関数を用いた技術活用が初めて登場した。その議論における代表的なものは電子カルテ。カルテの電子化に当たっては真正性 (改ざん不可能性)、見読性(見て読める)、保存性が重要である。電子カルテを他の医療機関に渡すときは電子署名というやり方があり、その電子署名にハッシュ関数を用いて認証局を通して相手に伝える仕組みが総務省によって整備された。また、真正性担保のためにタイムスタンプサーバがあり、データがいつのものなのかを証明している。この機能にもハッシュ値を用いる。

ネットワーク上での医療情報のやりとり (病院内での管理の仕組み + 病院外とのやりとりにおける仕組み) にたいしては3省 (厚労省、経産省、総務省) 4ガイドラインが存在し、そのガイドラインに従って決められる必要がある (4つもガイドラインがあってわかりにくいので来年からは3省2ガイドラインになるらしい)。

ガイドラインによると、ネットワークを通じて医療情報をやり取りする場合はIP設定により暗号化された通信を行う必要かつ、認証局をおく (データの送り先が偽物ではないかを確かめる)ことが必要である。

ガイドラインを踏まえた上で、ブロックチェーンを医療情報システムとして活用することが適切でないのではないかと思う理由が 5 つある。

  1. 途中でデータ送信をとめることはできないため医療情報の誤送信は取り返しがつかない
  2. 時間の概念がない (ブロックチェーンのマイナーたちのサーバーの中には時間管理という概念がなく、あくまでもハッシュ値を計算しているので時間軸がないが、電子カルテは時間の情報が必要であるため、タイムスタンプをブロックチェーンに入れる仕組みが必要)
  3. 秘匿性の高い情報を扱えない (ハッシュ値は32バイトしかないので、完璧な暗号化は期待できず。あくまでも改ざんされていないことの証明に使う必要がある)
  4. データサイズの大きい台帳の取り扱いができない (データ量が多いとマイナーによる承認に時間がかかる。Bitcoin だとブロックサイズが1MB, 平均的な取引データ量は 250バイト。電子カルテは1K, CT画像は2G のため、画像データなどの保存に向かない。)
  5. 高速処理が要求される場面に向かない

一方、ブロックチェーンによる情報管理に向いているユースケースの条件として以下のものがあるのではないかと考える。

  1. データの改ざん防止が目的のものが向いている
  2. データサイズが小さく、相手にデータが届けば頻繁にデータ確認の必要がないもの (ブロックサイズが 1 MBのため、1MB 以上のデータはまとめられてしまう) 

例えば、改ざんされてはいけないけど参照されても良いものの例としては、送金、資金決済、流通サプライチェーン、土地登記簿などがある。

医療分野におけるブロックチェーンの応用例

北海道で行われている調剤薬局のデットストックの解消サービスの実証実験などが挙げられる。調剤薬局は様々な薬を一定量持たないといけないが、ニーズのない薬は死んでしまうとロスになるため、薬局間で薬のストック情報を共有することで効率よく薬を裁こうとするシステム。ハイパーレッジャーパブリックを使用。この実証実験の検証結果として以下の結論を得たらしい。

  • 医薬品トレーサビリティ成功
  • エスクロー決済 成功 
  • 改ざん不可能性の検証成功
  • コスト削減の可能性見出す

参考URL : https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/cloud-indetail/

前回記事 : 医療情報×ブロックチェーン勉強会 (1)医療情報の扱いと流通&政策動向

https://omegastep.com/2018/12/10/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1x%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A-2/

次回記事 : 医療情報×ブロックチェーン勉強会 (3)医療情報をブロックチェーン上で扱うサービスの挑戦

https://omegastep.com/2018/12/10/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1x%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A-3%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%82%92%E3%83%96/

医療情報×ブロックチェーン勉強会 (1) 医療情報の扱いと流通&政策動向

前提

この記事は、下記リンクの勉強会『医療情報×ブロックチェーンプロジェクトの実現可能性と課題 [医学生向け集中講義&討論会!]』において学んだことを記したものです。この勉強会は、医療情報システムにブロックチェーンを用いることの是非や実現可能性を議論することを目的とし、医療情報システムの日本における規格作りのエキスパートとして一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会 (JAHIS) 様を、医療業界におけるブロックチェーン導入の挑戦者としてMediblocを招き、講演とパネルディスカッションを行ないました。本記事『医療情報×ブロックチェーン勉強会 (2) 医療情報の扱いと流通&政策動向』では JAHIS 様の発表内容をまとめております。この記事の内容はあくまでも勉強会を受けた参加者個人の解釈をもとにまとめておりますことをご了承ください。

記 : https://www.meetup.com/ja-JP/Decentralized-Salad/events/256262260/

目次

  1. 個人情報とは
  2. 要配慮個人情報とは
  3. 個人情報・要配慮個人情報の第三者提供
  4. 次世代医療基盤法
  5. 医療情報の利活用に向けて検討中の制度

個人情報とは

個人情報の定義

個人情報とは特定の個人が識別できるものをいう。例えば, 「✖︎✖︎✖︎✖︎年✖︎✖︎月✖︎✖︎日生まれ ✖︎✖︎歳のときに✖︎✖︎病院にて✖︎✖︎の手術を行う」という情報があった時, ✖︎✖︎ の一つ一つは, 個人が特定されない限り個人情報ではなく, あくまでも情報の複合体で個人を識別できるものが個人情報である。

個人情報の取得と利用のルール

個人情報保護法 = 勝手に取得したり使ってはいけなくて, 情報の使用用途などをあらかじめ明示しておく必要がある。

明示の方法

  • 公表しておく (間接的。Webページなどに載せておく)
  • 個人に通知する (本人に直接同意を取る)

要配慮個人情報とは

要配慮個人情報の定義

個人に関する、人種・心情・社会的身分・病歴・前科・犯罪被害などの情報。例えば、「病歴」の情報であれば、障害の有無, 健康診断の結果, 保健指導, 診療調剤の情報など。

→ 他の個人情報に比べて一段階厳しめの取り扱いルールが存在する (要配慮)

要配慮個人情報の取得とルール

明示ではなく, 本人の同意を得る必要がある (伝えるだけではなく, 相手からOKをもらう必要がある)。

個人情報・要配慮個人情報の第三者提供

自分が集めた個人情報は, 自分のための利用のほかに、研究機関やメーカーなどの第三者に提供するときがある。第三者提供するときは本人に通知して同意をとる必要がある。

第三者提供の同意の取り方

個人情報の提供は「本人の同意が取れない場合はオプトアウト手続きを用いれば良いよ」、つまり、利用目的などに「第三者提供するよ」という旨や個人情報の伝達方法などをあらかじめ明示しておき、本人が嫌だと言ったらその提供を中止するのであれば第三者提供が可能。利用目的などは本人にわかるようにしておけばおっけー。

  • オプトアウト : 一旦はじめておいて, やだと言われたら除外するやり方
  • オプトイン : 本人の同意が取れた時だけ情報を集める方法
  • 一般的な個人情報では、実運用考えるとオプトイン原則。でもオプトアウトでも良い。
  • 要配慮個人情報では、オプトアウト手続きはダメ。しかし匿名加工情報という法律が去年確立。個人情報を, 特定の個人とわからないように, かつ復元できないように加工した匿名加工情報であれば第三者提供も可能、というもの。

次世代医療基盤法

要配慮個人情報は扱いづらいが, 情報は活用しないと意味がないため, 匿名加工医療情報の作成者の認定制度や, 取り扱いに関する規制が今年できた。次世代医療基盤法とは, 医療機関が本人にあらかじめ通知して, 本人が拒否しない場合, 認定事業者に対してのみ, 医療情報を提供することができます (オプトアウト手続きOK) というもの。

認定事業者は, 医療情報を病院から取得し (この段階では医療情報は加工されていない), その医療情報を加工した上で第三者機関に情報を渡すことができる。例えば, 製薬会社や国の調査機関などに渡す。 

認定事業者には, 多数の医療機関から医療情報が集まってくる。集まってくる医療情報は加工されていない。また, 適切な加工を施さないといけない。よって, 加工事業者は国からの認定を受けたものに限られる。

次世代医療基盤法は今年できた法律で, 認定取得にむけて動いている団体がいくつかあるが, まだ認定されている事業者はないため, 法律としては実際には動いていない。

医療情報の利活用に向けて検討中の制度

医療情報の適切な利活用に向けて, 政府としてやれることは法律やインフラなどの整備。そこで、政府が検討している, 医療情報の利活用促進のための制度を3つ紹介する。

(1) 全国保健医療情報ネットワーク (厚生労働省が検討中)

いまは病院間などが目的別に医療情報連携をする必要があり, 情報共有のネットワークを各々作らないといけない。そのネットワーク作りを, 国が肩代わりすることで, ネットワーク上のサービスを作る一般事業者が作りやすくなるのではないか? という考え方からスタート。

(2) 保険医療記録共有サービス

一般的には, 政府はネットワーク上のサービスまで提供する必要はないが, 作ったサービスが動かないとまずかったからなのか?保険医療記録共有サービスというネットワーク上のサービスを政府が作成中。

救急のときだけに参照できるような情報を共有したい。いまは, どのような情報を共有すれば効果的なのかを検討中。

(3) 情報銀行

個人情報を情報銀行に預けておくと, あらかじめ受けた個人の指示などにしたがって, 第三者に提供するという機関。情報を預けておくと, 情報を適切な所に公開して対価として利子が返ってくるというもの。投資信託に近い。2018年に認定審査受付開始。2019年3月に第一回めの認定事業者が決まるようで, 認定業者のハードルも低いそう。

実は現時点ではこの仕組みに, 要配慮個人情報は載せることができないが, これは現時点でのルールである。初めは普通の個人情報で行い, 成功したら要配慮個人情報も扱いを検討するらしく, 11月ころに第1回めの会議があり, 2月までに結論を得る, ということになっているらしい。

前回記事 : 医療情報×ブロックチェーン 【予習編】

https://omegastep.com/2018/12/02/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1x%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3-%E3%80%90%E4%BA%88%E7%BF%92%E7%B7%A8%E3%80%91/ 

次回記事 : 医療情報×ブロックチェーン勉強会 (2)ヘルスケア分野におけるブロックチェーンの課題と未来 https://omegastep.com/2018/12/10/%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1x%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A-2/

健全な若者ブロックチェーンコミュニティをデザインする

コミュニティデザインについて, 今後いくつか勉強会を企画しており[*0], その勉強会のモチベーションの一つとして, 学生ブロックチェーンコミュニティの現状やその問題点についてメモをしました。

*0 : https://docs.google.com/document/d/1_36V4GC3OOtG7i4LB6ILLQw9zEBRAEMeY30WG2Sgi0Y/edit?usp=sharing

目次

  1. 学生団体は, 安くて優秀な人材のプール
  2. コミュニティ活動の価値は計り知れない
  3. 学生コミュニティとして活動することのメリットと苦悩

    1. 学生団体のリーダーは必ずしも勉強会参加者のコミットを引き出せるファシリのプロではないため, 勉強会のコンテンツ作りの役割がリーダーに集中してしまうことがあること。
    2. 勉強内容について, 学生の集まり以上の質が安定的に保証できない。教育に関する協力を申し出てくださる技術者はたくさんいるが, 勉強会のオーガナイズにうまく組み込めず, 利用できずにいること。

    3. 学生コミュニティの提供できる価値が学生にしか還元できていないため, 企業などに対して長期的な支援を頼みづらいこと。
  4. コミュニティイベントには 2 種類ある
  5. 学生や学生のコミュニティが (学生に, ではなく) 社会に提供できる価値
    1. 人脈の作りやすさ (学生で((英語が話せて))ブロックチェーンが好きというだけで迎えてもらえる)
    2. 挑戦に対する抵抗感のなさと, 海外のプロジェクトに対する需要の高さ
    3. 作りたいものや取り組みたい課題が見つかると, 自主的に短期間で少人数で集まってプロダクトのデモを作ったり, 自主的に分析した結果を公開したりする活動ができる自主性
    4. コミュニティの情報や主導権だって売れる
    5. 他にも学生コミュニティが社会に提供できる価値はあると思うが, ローカライゼーションの外注先にはならない方が良い
  6. 最後に~自分が学生コミュニティをつくるなら

学生団体は, 安くて優秀な人材のプール

2018年の春, あるイベントを自分の知人がひらくことになり, 自分の通っていた勉強会の代表や学生を巻き込むことになった。イベントの企画のために, 学生の子たちとイベントの協力者とでミーティングを開いたところ,ミーティング場所には学生に混じって知らないスーツの 50-60代ほどの方が腕を組んで鎮座していた。その方はイベント企画の間中一言も話さず, ミーティングが終わると学生らに名刺を配って去って行った。

今年 (2018) の春, 大学院を中退ほやほやの私は学生気分のまま, 友人の友人が代表の, ブロックチェーンや仮想通貨に関する学生主体の勉強会に, 純粋に勉強仲間を求めて通っていた (当時は, 業界の学生団体による第1回目の勉強会が始まったような時期であった)。しかし上記の一件があってから, 学生団体は, 優秀な, もしくは少なくとも暗号通貨/Blockchainに関する活動に積極的な学生のプールであることを認識した。自分の中の学生気分のままの部分は, 純粋に勉強をしたり, 暗号通貨/Blockchainに熱狂する仲間を見つけたくて入った学生団体が, そのようなプールとして見られることを嫌がったし, 一方で社会人の部分の自分は, そのような優秀な学生のプールに企業が何かしら関わりたいと思う気持ちも理解できた。

学生団体のチャットグループには, 学生経由で様々なアルバイトやボランティアの仕事が落ちてくる。時給1000円そこらの暗号通貨/Blockchainのリサーチャーのアルバイトや, 翻訳のアルバイト, 暗号通貨/Blockchain業界の企業やインフルエンサーが登壇するイベントのお手伝い募集。。。そして, 学生たちがお金を稼ぎつつこの業界に関わりたい, と思う時の発想も, 翻訳手伝います, イベントやリサーチやります, だったり, プロジェクトの SNS 運用をします, だったりと, 自分の時間を切り売りするもの (もちろん翻訳やイベント屋さん, リサーチ, SNS運用のプロになりたいという学生なら話は別だが) が多い印象である (中には自分で開発の勉強をしてから, エンジニアとして企業でインターンをし, スキルを身につけている学生もいる)。しかし, ここ 4 ヶ月ほど, 5 つの学生団体・学生コミュニティの活動や, 学生たち一人ひとりとコミュニケーションをするなかで, この業界の若い人にしかできないこと・可能性は, 翻訳, イベントやリサーチの比でないことを痛感した。

コミュニティ活動の価値は計り知れない

我々は, この業界がまだ非常に若く, 混沌としており, 将来的には必要な業界の機能であるのに, まだ誰も手をつけていない活動がたくさんあることを知っている。その必要不可欠な機能のうちの一つが,  アカデミックで若者 (年齢というよりは,  変化を恐れずに挑戦意欲旺盛な人のことを自分はイメージしている気がする) 主体の,  既存のビジネスやインフルエンサーの利権や意見などに本質的には左右されることがなくオープンで,  挑戦意欲にあふれたコミュニティである(適切で完結な表現が見当たらない)*1

そのようなコミュニティの原動力となるのは, (キャリアやビジネス上の評判, 家族を養うために必要な収入といった失うものを持っている) 社会人ではなく, 学生 (のような, アカデミックないし知識欲に満ち溢れたひとたちであり, かつある程度挑戦をしても失うものが少ない人や, 挑戦して失敗しても何とかなると構えている系の人, 失うものはあるが失うリスクを冒して意思決定ができる人) ではないかと私は考えている (適切な言葉が見つからない)。ともあれ, 学生の中には, そのようなコミュニティを自主的に作ろうとしている人たちや, すでに学生団体やサークルを作り活動をしている人たちがいる。

コミュニティが 2 人以上の人間の集団のことを指すのであれば, コミュニティというものは, 学生団体ができる前から存在していたことになるが, 学生団体の創設者たちが生み出した価値とは, そのコミュニティにラベルをつけ, 外部からその実態を認識可能にし, 新しいメンバーを受け入れたり, 学生メンバーたちが自分たちはコミュニティに所属しているという意識を持つことができるように演出したことだろう。これは, 翻訳やイベントの手伝い, リサーチアルバイトをすること以上の発想が必要な活動であると私はおもう。ラベルがついたコミュニティをつくることは, コミュニティが小規模であったり認知されていないときにはどのような価値があるものか想像しにくいだろう。しかしコミュニティが大規模であったりコミュニティに所属意識や愛着をもつコミュニティメンバーが増えるときに初めて, ラベルのついたコミュニティの重要度が認識されるのではないだろうか。外部から認識が可能なコミュニティの重要さの具体例として,  「この勉強会に行けば学生のコミュニティに触れることができる」と新参者が認識できることや,  すでに所属するメンバーが安心感・帰属感を持つことのできるような役割,  研究者が10年後に2018年の仮想通貨・ブロックチェーン周りのコミュニティの動きについて調査をしたいと願った時,  研究者がアプローチできる窓口の役割を果たしたりする。そのような機能をもつコミュニティを創設した学生団体のリーダーは, コミュニティ活動における意思決定者としての立場を獲得し, 業界に対してある程度の存在感を持つことになるだろう。

*1 また, ここでいうコミュニティとは, ((ブロックチェーンや暗号通貨が世の中を変える, などの)) 同じ価値観/ビジョンを共有する人間の集団のことである

学生コミュニティとして活動することのメリットと苦悩

1. 学生団体のリーダーは必ずしも勉強会参加者のコミットを引き出せるファシリのプロではないため, 勉強会のコンテンツ作りの役割がリーダーに集中してしまうことがある。

学生コミュニティは, 様々な企業や社会人からの協力が得やすい場合がある。営利目的の会社が借りようとすると場所代を払う必要があるようなイベントスペースでも, 学生が主体のイベントであると「非営利目的のイベントであれば支援したい」や「学生の学びを支援したい」といって貸してくださるところはいくつも思いつく。実際, 学生向けのイベントを開催したときは, 会場費を無料にしていただいたり, 無償ないしわずかなお金で登壇してくださる方に恵まれた。学生団体の勉強会のために, 企業の方が自主的に講演をしてくださったり,  勉強会にともに出席していただき, 内容にたいする技術的な面でのコメントをくださる場面にも出会った ( : ALIS : https://twitter.com/Blockchain_UT/status/987983976810737664, Gumi : https://twitter.com/Blockchain_UT/status/1032102758105542656, Yenom : https://twitter.com/cryptoage_jp/status/1031110394788511744, Hashhub : https://twitter.com/cryptoage_jp/status/1048905133113802753 の方がたなど)。海外のプロジェクトでも, 学生コミュニティを支援する活動に興味を持っているとファウンダーやコアメンバーが言っているところはいくつも思いつく ( : TLDR のアレックスや wings Stas, Metamask kmavis など)

企業や社会人が, 特に学生団体の勉強内容の質の向上に対して協力してくださることは, 学生の勉強会にとっては非常にありがたいものだ。学生主体の勉強会の難点の一つに,   勉強会のコンテンツをつくる役割が, 毎回学生団体のリーダーに集中し, リーダーの負担が大きい, というものがあるからだ*2

私が顔を出していた学生団体のリーダーと以前話した時, 彼は, 講演をしてくださる方を呼ぶことができると, 勉強会を開く負担が減る, という趣旨のことを言っていた。学生団体のなかには, 様々な企業や社会人の協力のもと, 学ぶ機会を増やしつつ, いっぽうで企業がイベントを開いたりアルバイトを募集するときはその告知を勉強会メンバーに行うことで, 持ちつ持たれつを実現しているところもある。

*2 20186月ごろに, 4大学の学生団体のリーダーとそれぞれ話す機会があり, この点について意見交換をした。この点について, 特に困っていると答えた学生団体は, 毎回の勉強会の参加人数が10人を超える規模のところであり講義式の勉強会になっていた。それほど困っていないと答えた学生団体は, 毎回の勉強会に参加する人数の平均が所感10人以下で議論しながら勉強を進める形式であった。学生団体は, 今年できたものが多く, いつでも誰でも, 違う大学であろうが, 社会人であろうが, 一回の参加であろうが, 勉強をしたいという人に対してはどこもある程度オープンな団体が多い (少なくとも私の知っている学生団体の勉強会 4 つは全てその特徴を持つ)。勉強会の参加者が多いにも関わらず参加者のコミットがあまり期待できない学生団体が存在するのは, 帰属意識を参加者に持たせていないことが原因なのではないかと考えている。ただ, オープンであることの良さを保ちつつ, 参加者に帰属意識をもたせ, 勉強会にコミットさせるスキルというものを, 勉強会を開いているリーダーたちが必ずしも持っているわけでも, 忙しさによりそこまで考える余裕があるわけでもないだろう。

2. 勉強内容について, 学生の集まり以上の質が安定的に保証できない。教育に関する協力を申し出てくださる技術者はたくさんいるが, 勉強会のオーガナイズにうまく組み込めず, 利用できずにいること。

学生団体の抱えるもう一つの問題は, 勉強会中に疑問がでた時に, 技術的な質問などに対してその場で解決してくれるメンター的存在がいないことだ*3。学生コミュニティの中には, 翻訳などのアルバイトを受けたり, コミュニティスポンサーを探すなどしてコミュニティ内でお金を作り, 毎回の勉強会で技術について聞ける人を継続的に雇いたいと考えているところもあった (お金で解決しよう的アプローチ)。勉強会に対して, ちょっとくらいなら喜んで手伝うよ, というエンジニアの方, 企業の方はたくさんいるが, 勉強会のたびにそのようなメンターに協力を依頼したり, 探すことはリーダーにとって非常に労力なのだ。技術メンターに, アドバイザーになってもらうなどして, 一定期間以上継続的/定期的に来てもらうこともできるだろう (例えば, Keio Health X  などの, 最新のテクノロジーを学ぶ医学生による学生団体などは, 様々な企業からメンター的役割の人を迎え入れている : https://www.keio-healthx.com/blank-2)。しかし, 勉強会が現時点でそれほど整理された状態ではない (協力者を依頼するスキームが整ってなかったり, 勉強会のコンテンツも先々まで決まっていなかったりなど) ことや, 社会人に定期的にコミットを求めるほどの win, 現時点で学生団体側が提供できない (ないし, 提供の仕方もまちまち) など (次章で詳しく説明), 様々な理由からその実現が叶っていない。

*3 20186or7月ごろ, 元ブロックチェーン事業に関わっていた方について, 学生団体が技術メンターを探していると相談をしたところ, いつでも相談をしてほしい。とご回答いただいた。しかし, そのような方を学生の勉強会に毎回お呼びするわけにもいかないので, 一度ある学生団体には, 毎回の勉強会で出た疑問をブログなどに公開すれば, 私や学生団体を気にかけてくださっている様々な方が疑問解決に尽力してくれて, コメントなどくれるはずであるから試してみたらどうか, と提案したことがある。

3. 学生コミュニティの提供できる価値が学生にしか還元できていないため, 企業などに対して長期的な支援を頼みづらいこと。

また, コミュニティを盛り上げようとして, 様々なプロジェクトとイベントを開く学生コミュニティもある。そのコミュニティのコアメンバーたちは, 様々な国内外のプロジェクトやアカデミックな機関を巻き込み, メンバーに対して質の高い教育や挑戦の場を提供できるようなブロックチェーンコミュニティを作りたいと考えている。現時点で, そのコミュニティの活動は全て学生のボランティアで成り立っているが, 上記のビジョンを実現するためにはそれなりに大人数の, かつ長時間のメンバーによるコミットが必要になってくる。学生コミュニティのコアメンバーたちは, コミュニティの活動にコミットしてくれた学生に対して, それなりに報酬をはらえるような団体にしたいと考え, 報酬を払うためにスポンサーを探したり, 翻訳などの仕事をコミュニティ内で請け負うことなどを考えているそうだ。

これは, 重要な取り組みである。なぜなら, 短期的な翻訳やリサーチのアルバイトを受けるよりもクリエイティブな活動をしているのに, それに対する報酬がないと, コミュニティ活動をするためにコミュニティ活動とは別にアルバイトをしなくてはいけなくなってしまうからだ。しかし, そのようなコミュニティは, 学生にとっては価値があるが, スポンサーとして出資を依頼する企業ないし投資家に対しては, 安定的に相応の win を提供できるものではなく (例えばリクルーティング機会になる, と謳ったところでその CV を保証できるものではない, など), 出資者の善意に頼ってしまう現状がある。また, 一部の理解ある人や企業にだけコミュニティ活動が支えられると, 理解ある人や会社のリソースが一方的に削られるだけで, 安定した活動が見込めない。学生だから助けてください, にはいろんな意味で限界があるのだ。

そして, これは個人の所感であるが, このような学生団体が, 将来的に研究団体として発言力や存在感を有し, 規模の大きなことに取り組もうとするときに一番必要になってくるのは, 適切なパーティーに適切な要求をしつつ相手にwinを提供する交渉力, 学生/若い人の集まりでしかできないことを見つけ, winとして売りにすることで「学生だから助けてください」的立場から卒業することではないか, と思う*4。この交渉力は, 201810月の現時点では, どの学生コミュニティも持ち合わせていないように思う。

*4 一緒に提携したり活動したりする企業や社会人のデューデリをする能力 (盲目的なフォロワーにならないように客観的に相手の実績を判断することにより, 学生団体のネームを守ること) も必要だ。

コミュニティイベントには 2 種類ある

CryptoAge (https://twitter.com/cryptoage_jp), Hash hub (https://www.hashhub.tokyo/)など, 学生の活動を盛り上げたり支援したりするコミュニティや拠点,  Meni Rosenfeld bitcoin meetup (https://www.bitembassy.org/)や Ken Shishido さんらの開く東京 bitcoin 会議 (https://www.meetup.com/ja-JP/Tokyo-Bitcoin-Meetup-Group/), ゼニハウス (https://twitter.com/zenihouse) でのビットコインとは何かの初心者向けの無料の解説会や, サンタルヌーでの飲み会 (https://belgianbeer.tokyo/), 参加費無料のピッチイベントやインフルエンサーによる登壇やセッションのイベントなど, コミュニティはいろんな実体として, 我々の前に姿を表す。これらコミュニティイベントや拠点の中には少なくとも 2 つの種類のモチベーションがあるのではないかと考える (カテゴライズできていないものもあるので, 2  種類以外の形態も存在するだろうとは思っている)。コミュニティイベントの種類につける名前として適切なものが思いつかないため, 種類 A, B として紹介する。以下, コミュニティイベントとは, 参加者無料のもののみを対象とし, 教育や情報発信, 交流などが目的で, かつ営利目的ではないこと&企業同士のマッチングやリクルーティングも視野に入れたカンファレンスなどのイベントではないものとする。

種類 A : 東京bitcoin会議, テルアビブのBitcoin embassy, ゼニハウスでのビットコインとは何かの初心者向けの無料の解説会など, この業界に興味を持った人が交流できる場所を安定的に用意するイベントや拠点。ミートアップの参加者の情報などは集めず (ミートアップでの参加ボタンを押す必要があるが, 入り口でチェックしたり名刺集めたりしない), イベントへの出資者が少なく, 出資者あたりの負担が比較的大きい印象の活動である。集めるべき目標人数もなければ, 特定の属性を持つオーディエンス (エンジニア対象だったり, 学生対象だったり) だけにフォーカスしたイベントでもない。来る者の属性を主催者側が選ばず, 参加者にコミュニティ (自分と同じく暗号通貨やブロックチェーンに何かしら興味関心をもった集団) と必ず接触できる物理的場所や機会を無償で提供しているところに非常に意味がある。仮想通貨ないしブロックチェーン周りのコミュニティメンバーの交流の場を設けることにより, 草の根的にコミュニティを盛り上げる運動を何年も続けている方々がいることは非常に尊敬に値すると私は思う。似たようなものに, Meni Rosenfeld が bitcoin embassy にて主催するビットコインミートアップがある。このミートアップは, 毎週水曜日にイスラエルのテルアビブで開催され, 業界に2013年くらいからいる Meni , Meni の運営している bitcoin embassy を運営する方が, 「ビットコインとは何か」, を参加者にヘブライ語で解説している。ブロックチェーンやビットコインに関心を持った人が入門として顔を出すようなミートアップである。このミートアップも, 事前登録が必要であるが, ミートアップ会場で登録者をチェックしている様子はなく (データを何に使っているのか今度聞いてみよ…) , ビットコインやブロックチェーンに関心を持つ人を少しでも増やそうとしている草の根的活動と言える。この種類に共通しているところは, おそらく主催側が「自分がやらないと誰もやらない的」使命感により少なくとも 1 年以上前から開催されているものであり, スポンサーがいない身銭を切った活動であるということであろう。毎回のイベントの趣旨自体は代わり映えするものではなく一貫性があるが, コミュニティ形成にとって, 「少なくともこのイベントは今月も絶対に開催される」ことの安心感をオーディエンスに与えることは非常に重要であると思う。東京では, 仮想通貨やブロックチェーンに関するイベントがあふれ出したが, ほとんどが一回で終わってしまうイベントであることが多い。しかし, 上記のイベントは, 毎回のミートアップで同じメッセージを参加者に向けている。登壇者, 主催者も変わらない。同じメンツが来ることも多い。

種類 B : 学生コミュニティや学生団体などの開くイベント。程度の差はあれど, コミュニティであることを売りにして, 協力者のイベントに対するコミットを引き出しながら, コンテンツを充実させたり参加人数を拡大する, という性質やモチベーションを持つイベントを指す。また, イベントを開くときに, 一定数の学生やエンジニアと接することができることをインセンティブとして(リクルーティング目的のイベントではないので, あくまでも企業や個人の方の「学生の学びを支援することはこの業界にとって重要である」という善意やビジョンへの共感を頼りに), 企業やプロジェクトに協力を依頼する, というシーンがあるコミュニティイベントである。このようなコミュニティイベントは, 一回一回のイベントの質は他のピッチイベントなどに比べると高く (オーディエンスから発せられる質問の質などが高い), またオーディエンスが (コミュニティに対する親しみを持っているためか) twitter 上などでイベントに関するツイートを自主的にしている印象がある。企業側が, 例えば学生対象に単発のイベントを開きたいと考える時は, 上記のような学生団体と手を組むことによるメリットは大きい。

しかし, 学生向けのイベントや勉強会を行なっているだけの学生のコミュニティが, それ以上の機能 (ex. 研究/教育機関的役割だったり, 学生起業家集団の支援だったり) を持ちたいと考えると, 途端に企業側が永続的にそのような学生コミュニティを支えるメリットが見えにくくなり, 学生コミュニティ側にそれなりの「相手にwinを提供できる」交渉力が必要になってくる。ある学生向けのイベントや勉強会を行なっている学生のコミュニティに聞いたところ, 彼らが言う現時点で提供できるwinとして提示したのは

・学生支援をしている企業としてのイメージアップ

・優秀な学生への認知*5

などであった。が, これは学生コミュニティと一回イベントを開くときに得られるメリットとほぼ同じであり, 企業側は「学生コミュニティと1回イベントを開く」だけの関係を選ぶであろう。

現時点で学生コミュニティに必要なことは, 「学生コミュニティが社会に提供できる価値」を, 学生の発想から抜け出して考え (自分たちが何をしたいか, だけではなく, 社会が自分たちに何を求めているか, も考える), 企業や社会人に「売」ることで永続的に支援をしてもらい, 研究活動等に打ち込めるような環境を作ることである。この環境づくりは, 翻訳やSNS運用のアルバイトを引き受けるクラウド化して時間を切り売りしたり, イベントにボランティアを派遣するといったような人員を貸し出すことのできるプール化することではない。ベストな環境づくりの発想を得るには, 多くの「商売やビジネスの感覚を持った人間」のセンスが必要になってくるのである。私のような個人が考えるには非常に限界があることを自分は今身を以て体験しており, 皆さんに協力を要請したくてこの文章を書いた。

*5 優秀な学生が必ずしも御社に入社したりインターンに来てくれるとは限らないし, 起業を自分でしたい系の学生は, 時として「自分で決めたい, やりたい」意欲が強いのでアドバイスをいけ入れなかったり, 様々な人のアドバイスを独自に解釈して行動するため, 企業側からすると扱いづらいこともあるのではないかと思う。

学生や学生のコミュニティが (学生に, ではなく) 社会に提供できる価値

私個人が考え得る限りの学生のメリットを挙げる。

1. 人脈の作りやすさ (学生で((英語が話せて))ブロックチェーンが好きというだけで迎えてもらえる)は間接的に日本人コミュニティに還元することができる

学生団体の一つが, クラウドファンディングにより集めたお金などを用いて, 海外にリサーチに向かったことは記憶に新しい。そこで彼らにリサーチをした感想を聞いたところ, プロジェクトだけでなく, 他国の学生団体や研究機関にも快く迎えられたということだ。彼ら学生のつくる幅広いコネクションによって, 彼らにつながりを持つ学生やその他コミュニティメンバーが間接的に幅広いコネクションにつながり, 将来的に日本のコミュニティができることが増える可能性は高いのではないかと考える。

20186月ころまで, 自分は, ICO を成功させたことのあるような勢いのある海外の暗号通貨/Blockchain関連プロジェクトなどを相手にした窓口のような仕事をしていた。その中で, 英語である程度コミュニケーションが取れる学生/若者で, かつ暗号通貨/Blockchainが好きであるというだけでも, 人材として予想以上に需要があることに気がついた。この界隈は, 成功しているプロジェクトであっても, 規模的には「スタートアップ」であり, 常に人材不足である。そして人件費にたくさんはお金を払えず, 何かのプロフェッショナルであり高給の人材を雇うよりも, ビジョンに共感し, ビジョン達成のために常に学び続ける人を重視して雇うイメージがある (個人的な感想であり, 統計的事実があるわけではない)。個人的には, 日本でこの業界で学び活動する学生たちは, 起業したりスタートアップで働くことに対して抵抗が少なく, ブロックチェーンに限らず新しいイノベーションに敏感 (以前学生対象の勉強会でアンケートを取ったことがある) , フットワークが軽い印象であるため, 海外プロジェクトの日本におけるスポークスマンとして働きたい学生がいれば, その学生の需要は非常に高いと考えている (そのような若い人材に興味がないと答えたプロジェクトは, 少なくともここ2ヶ月でで出会ったプロジェクトの中にはいなかった)*6

そして, 積極的に海外のプロジェクトと関わりたいと考えている学生は, 日本のブロックチェーン/暗号通貨コミュニティにとっても貴重な存在である。なぜなら, 現時点で有名なブロックチェーン/暗号通貨系プロジェクトは全て海外のプロジェクトであり, 海外のプロジェクトにジョインしている日本人はまだまだ少ない (個人的な意見)。よって, 日本のコミュニティが海外のプロジェクトと提携したり一緒にイベントを開いたりなどをしたいときに頼れる日本人の数が根本的に少ない (個人的な意見)

積極的に海外と関わりたい学生が, 世界各国のプロジェクトに一人でもジョインしていたり, 深い関係を築いたりすることで, 例えばその学生が日本の企業に将来的に就職すれば, その学生は日本の企業と海外のプロジェクトを繋ぐ要になる。学生が海外のプロジェクトに就職し, 海外の情報を日本に発信する存在となれば, 日本の企業やコミュニティが, 海外のプロジェクトに対するコネを今以上に有することになり, 日本人コミュニティに入ってくる生の情報や人脈の質が全体的に上がるのではないかと考えている。

海外のプロジェクトと学生のマッチングがうまくいっていない理由があるとすると, それは両者の要求がかみ合っていないことにあると考える。

例えば, 海外のプロジェクトが日本の学生を雇いたいと考える理由は主に 2 種類あることを, ヒアリングの結果 (10プロジェクト以上は確実にヒアリングした) から感じた。一つは安くて優秀な人材 (SNS運用やコンテンツ作りなど, 日本におけるローカライジングを手伝ってもらう労力) として。 もう一つは自社プロジェクトの日本におけるスポークスマンとしてだ。この 2 種類の理由は, ともに日本市場に入る上での人材としての利用という趣旨であるが, 要求する仕事の質が圧倒的に異なる。前者はアルバイトとして, 顔出しなしで時間を切り売りして活動することだ。そして後者は, 同志としてプロジェクトの顔として活動することだ。現在の仮想通貨の下り相場では, 海外のプロジェクトが日本においてプロモーションをする際には, 専門PR&マーケティングの会社に頼まずに, アルバイトに依頼して安く済ませたいという前者の需要も出てきたが, 後者の需要の方が圧倒的に高いという所感を自分は持っている。

ある海外プロジェクトの「同志として」働く日本人は, その海外のプロジェクトのCEOや役員などにとって「信頼できる日本人」となり, 将来的には, 例えば日本支社を作ることになったらその支社の社長を依頼される可能性がある人間となる。そして, 「同志として」働く, とは,  例えば日本で行われるカンファレンスなどに, 海外プロジェクトの代表として登壇したり, 日本企業とのミーティングを任されることである。海外にいて日本人とコミュニケーションをとる機会が少ないプロジェクトが, このような人材を獲得できる可能性は非常に低い。そして, 「同志として」働く日本人を見つけることができないために, 日本支社を作ることができない (進出が面倒になる) 事態も生じることがある。

さて, 海外のプロジェクトで仕事をしたいと考える学生が, 海外プロジェクトの求めていることが主に「アルバイト」ではなく「同志」であるという発想を持つだろうか。いいや, 普通は持たないだろう。以前, 海外のあるプロジェクトにインターンをしたい学生がおり, 海外プロジェクトに紹介をしたことがある。そのとき, 学生はプロジェクトが「アルバイト」を求めていると考えており, 一方でプロジェクト側は「同志」を求めていたため, 海外プロジェクトと日本の学生の話が噛み合わない, ということがあった。学生に, 「同志」のニーズがあることを伝えると, 顔を出してプロジェクトを応援するリスクはなるべく冒したくないという返事が帰ってきた。確かに, 物理的に距離の遠いプロジェクトないしプロジェクトのCEO, 学生がそのプロジェクトの掲げているビジョンだけで信用できるようになるか, と言われると否であろう。ビジョンに共感できることと, 経営者を人として信用 (, そしてこの経営者のために働きたいと思うことが) できるかは別問題だ。学生もお金や機会がないため, 積極的に海外のカンファレンスやインターンに行くなどして様々な人と深いコミュニケーションを築くことが非常に困難であるし, 海外のプロジェクトが日本にくることのできる回数も, そう多くはない。

海外のプロジェクトに, エンジニアとして働きたいという学生に関しても, 同じような「お互いのwinがかみ合わない現象」が生じる。海外のプロジェクトからすると, いくら人件費の安いエンジニアだからといって, 遠隔からのインターン希望であったり英語が母国語でなかったりすることでコミュニケーションコストがかなりかかる日本人の学生をわざわざ雇う義理はないのだ。この場合, エンジニアとして働きたい学生側が, 海外のプロジェクトがいま何を必要としているかを理解し, 自分から要求内容を工夫する必要がある。それは一段落前で挙げた「同志」のニーズを考慮することである。エンジニアとして海外プロジェクトにインターンを希望する学生なら, 例えば, そのプロジェクトが日本に来日する際はミーティングやイベントの登壇/主催に関することを手伝う, だったり, 日本語に関する翻訳のチェックを手伝うだったりを提案するなどして, 相手にとってもwinが強くなるような状態を, 相手に頼らずに自主的に作り出すことが必要である。「インターンしたいです。自分を活用する方法はあなたが考えてください」では忙しいスタートアップも判断に困るのだ。

このような噛み合わない現状は, 学生が悪いわけではない。学生は, 私もそうであったが, インターンをしたければ wantedly や就活サイトなどで様々な募集を見つけることができるからだ。アルバイトやインターン, 就職の条件に関してはデフォルトとして受け身であり, 自分で交渉する機会などは私も含めなかなか日本では恵まれないのだ。また, 学生と海外のプロジェクトの根本的なコミュニケーションの機会が少なかったり浅かったりすること*7 により, 学生側が信頼できる人を海外に見つけたり,  海外のプロジェクトがいまどんなことに悩んでいるのか, といったことにたいして知ったりする機会がないことも原因としてあるだろう。海外の人脈を持った大人が, このような学生と海外のプロジェクトの出会いの場をたくさん用意しつつ, 学生に対してはどのように海外のプロジェクトに接すれば良いのかをアドバイスしながら, 両者の交流を手助けするか, この記事を書くことしか現状解決策が見当たらない。

*6 また私は, 異なる文化圏の人間 (海外の人) を交えて仕事をすることは非常に勉強になると考えている。異なる「当たり前」を持つ人とコミュニケーションをとると, 自分の世界観の狭さや傲慢さに気がつくことが多く, そして自分と異なる「当たり前」を持つ人は比較的海外の人 (日本文化の中で育っていない人) の方が多いと感じているためだ。

*7 海外のプロジェクトのピッチイベントに学生が参加し, いくつか質問して最後に記念写真を撮って, 学生はプロジェクトのCEOに一切連絡先を聞かずに, もしくは連絡先を知ってもその後のコミュニケーションをせずにおわることが続くようでは, いつまでたっても日本の学生と海外のプロジェクト間の深いコミュニケーションはできない。連絡先を聞き, (メールで質問ぜめにすると相手も返信が来なくなるので,) 相手がカンファレンスなどに行くタイミングに合わせて自分も相手に会いに行き, オフラインでのコミュニケーションを何度かしてから 1 1 でどこかご飯に行ったり話したりする機会を設けることは重要だ。一対一で深く議論をすれば, なんとなく合う合わないはわかるはずであるし, そこから深い付き合いは始まってくるものであろうと思っている。

2. 作りたいものや取り組みたい課題が見つかると, 自主的に少人数で集まって短期間でプロダクトのデモを作ったり, 自主的に分析した結果を公開したりする活動ができること

学生の勉強会や, 勉強会に参加している学生などによくありがちなのが, ブロックチェーンや暗号通貨に関する技術やビジネスについて学び, 実際に自分でも(もしくは学生団体として)なにかしてみたいけれども, 解決したい問題を持っていないことだ (そして,「お金儲けには興味を持っていない」「なにか社会のためになったりインパクトのあることや, 面白いことをしたい」系であることが多い) よって, 例えば仲間と起業することに興味があっても, 事業内容が決まらないので, すでに事業に取り組んでいるスタートアップにジョインする, という例をよくみる。

学生たちが,「解決したい問題を見つけるきっかけ」として自分が知った例としては, 「アイデアソンなどをきっかけにして自分たちが考えたアイデアをもう少し詰めてみたい」とか, 「学園祭などのきっかけに合わせてプロダクトを開発したい」とかがある。この業界の技術に熱をあげている若い人たちを見ていると, 作りたいものや取り組みたい課題が見つかると, 彼らは自主的に短期間で少人数で集まってプロダクトのデモを作ったり, 自主的に分析した結果を公開したりするモチベーションが高い印象を受ける。このような自主的な活動ができることは, 彼らの非常に素晴らしい性質であるから,  学生や学生のコミュニティが社会に提供できる価値として活かした方が良いように思える。

例えば, どこかプロダクトを有しているプロジェクトと短期で提携し, プロダクトのユーザーを広めるための実証実験に関わ ( : 導入事例を作) ったり, その中で生じる様々な弊害 (そしてその弊害の解決には, テクノロジーの力だけでなく, 様々な学問の力を必要とするだろう) に対してコミュニティ内で研究し, プロダクトの必要性や課題などについて客観的に議論し, その結果を公に共有する (対企業やプロジェクトに対するメリットにもつながる) というのはどうだろうか。そのような活動を, 比較的小規模な提携から実行していき, 質の高いナレッジを公にシェアすることで, 学生コミュニティの存在意義, 有益性を日本の企業群やインフルエンサー群に対して訴えるのはどうだろうか (コミュニティと企業が提携する, のではなく, コミュニティ内の一チームがある事業で企業と短期的に提携することの提案である。ただし, この提携をするには, *4で触れたスキルが必要になる)

3. コミュニティの情報や主導権だって売れる

暗号通貨/ブロックチェーン業界の企業だったら, 学生コミュニティの有するアセットとして魅力的に思うのは, イベント参加者やコミュニティメンバーの名前と連絡先の名簿 (何か告知や活動をする時に協力を養成するためのプールとしての役割) , コミュニティ活動に自身の意見を反映させることのできる権利を得ることで自身のアセットを増やすことだろう (実際のコミュニティ運営における実働の責任や苦労は負わずに, 必要なときだけリソースとしてコミュニティを呼ぶことができる, イメージ)

学生コミュニティと良いつながりを持っている, ということは, それだけで企業/社会人にとっては売りになる (これは学生コミュニティに関わる社会人や企業のみんながみんな, 都合の良いときだけ学生プールを利用しようとしている, という主張ではない。学生コミュニティを支援することで, 将来的に自分の活動がしやすくなるだろうし, たとえそうならなかったとしても, 学生を支援することは草の根的活動としてやっていきたいと考え, 時間や知恵, 場所などを惜しげも無く支援してくださる方は確実にいる。しかし一方で, 20184月ごろ, ある人がイベントを開く際に, その人と関係が深かった学生団体が, その人によって勝手にイベントのボランティア実働として働くことにされていたことがあった, という話もあったのだ)

学生のコミュニティは, 上記のような価値/売りにできるものがあることを理解した上で, コミュニティにとっても, それを支援したいと申し出てくれる企業にとってもwin-winの提案をできるようになることが必要であろう。学生コミュニティ側も, 相手に与える情報や権利の範囲を注意深く吟味しないと, コミュニティメンバーを売ったりメンバーからの信頼を欠くことにつながりかねないので, 慎重に塩梅を見極める必要がある。学生コミュニティの味方となって, そのような交渉ごとを仲介してくれたり, アドバイスをする大人が増えれば増えるほど, 学生コミュニティのリーダーたちはきっと, 自分たちがコミュニティ活動によって, 協力してくださる企業や社会人にどのようにお返しができるようになるだろう, と考えるきっかけが増えるだろう。

4. 他にも学生コミュニティが社会に提供できる価値はあると思う。が, ローカライゼーションの外注先にはならない方が良い

学生コミュニティの中には, コミュニティ内で翻訳やプロジェクトのSNS運用の仕事などを回してできたお金で, 技術メンターをお呼びしたり学生のコミュニティへのコミット (イベントの企画や手伝いなど) に対して報酬を与えたりしたい, と考えているところがある。しかし, そのお金を生み出す手段として, 学生コミュニティだからこそ提供できる価値 (単発のイベントをプロジェクトとともに開き, そのイベントの際に必要な稼働費をプロジェクトに請求したり, カンファレンスに学生参加者枠があったら, その集客を申し出るなどしてその報酬を活動費に回す, など) を提示するならまだしも, プロがいる業界に手を出す (コミュニティ内で翻訳やプロジェクトのSNS運用の仕事などを回し, ローカライゼーションの仕事をしようとする) のは本気でオススメしない (学生コミュニティの中で, 本気でSNSマーケティングや暗号通貨/ブロックチェーンプロジェクトのコンテンツ作りに興味があり, そのスキルを磨きたいというチームがいれば話はべつだが。。。)。ローカライゼーションの仕事は, 細かい仕事や役割分担が多く, 誰が今何をやっているか把握するだけでも一苦労であるため, コミュニティをアルバイトのクラウドとして使うには限界があるからだ。プロでもないので, コンテンツのクオリティも, マーケティングの効果も保証できない。コミュニティ内で仕事が回らなければ, コミュニティに仕事を外注したプロジェクトとコミュニティ間の関係も微妙になってしまうだろう。翻訳, SNS 運用などプロのいる領域の仕事を学生が時間と人材のリソースを切り売りすることで対抗しようとしても, それは学生コミュニティが学生にしかできない価値を社会に提供しているとは言えない。

最後に~自分が学生コミュニティをつくるなら

学生=学校に通う人というのであれば私は学生ではないが, 研究活動とそれをシェアすることは非常に好きだ。自分が学生コミュニティを作るなら, どのようなコミュニティを作るのか, ここ3ヶ月ほどずっとそのスキームなどについて考え, 様々な人たちから助言をいただいた。もしそのスキームをともに実現し, 長期的には受け継いでくれる学生や, コミュニティ形成・育成に興味のある社会人の方がいらっしゃったら, ぜひ相談にのってほしい。ここでその全貌を書くと, 気持ちが入りすぎて記事がより長くなってしまうため, 興味のある方がいらっしゃったら, ぜひどんな形でも連絡していただけると嬉しい。

この話の最初に, 学生団体に近づく怪しい社会人に嫌悪感を感じた経験を書いた。しかし, 学生と関わっていくうちに, 善意だけで (ビジネスをせずに) 一方的に学生の相談に乗ることは非常に辛いものであることを身に染みて感じた。そして, なるべくエゴな要求を学生にしないように気を遣ったり, 自分は学生と関わることで, ノーリスクで学生アセットを手に入れて利用していないか, とか, 自分は学生を利用する怪しい社会人なのではないか。と, 綺麗に行動しようとすればするほど, 自己嫌悪になることが非常に多かった。今もその状態が続いているが, イスラエルで全く別のことをしている中で, 少しづつその憂鬱から解放され, この記事を書くに至った。この記事を書くことで, 自分が怪しい人間ではないと皆に証明してほしいだけなのだろうと思う人もいるだろう (それも一部あるだろう)。が, 自分が本気で悩んだ経験やその経験を分析した結果を様々な人とシェアをしたかったので, ここに記した。最後まで読んでいただき, 本当にありがとうございます。